今年の葉(八)月七日は大安で立春です。同時に「はな」の日ですが、これは「葉」から連想される「花」ではなく、「鼻」の方です。風情はないのですが非常に大切なものなので、1961年に日本耳 鼻咽喉科学会ではごろ合わせをして「鼻の日」を設け、多くの方々に意識を高めていただこうと考えました。
鼻で自然に呼吸が出来ているときは、その本来の働きより格好の方が気になりますが、鼻がつまる、くしゃみ・鼻水が止まらない、鼻血がでるという不快な症状が出ると、人は息の通り道として鼻を強く意識します。
私たち耳鼻咽喉科の医者は、鼻の病気からくる不快な意識を出来るだけ取り除き、気道としての本来の機能を取り戻せるようにするのが仕事です。その一方で、患者さん自身に鼻を悪い条件にさらさないように注意していただくのがもっとも大切だと思われることがしばしばあります。
近年、鼻に関係した病気で花粉症ほどマスコミをにぎわせている病気はありませんが、これなどは花 粉を吸収さえしなければ発症しないわけですし、多量に花粉を吸入してしまえばいくら薬を使っていても十分な効果を得られないことになってしまうのです。花粉症に限らずアレルギーというのは遺伝的な体質で、薬を飲んだからといって消えるものではなく、医者の持っている治療手段にも限界があることを理解していただく必要があります。
そこで、外出時にはマスクをかけるようにしたり、帰宅時は衣服に付いた花粉を落とし家の中に持ち込まないようにするなどの日常生活の中での工夫が大切になるのです。アレルギー性鼻炎の原因物質に は花粉のほかにダニ、ほこりやカビなどがありますが、やはりそれらをできるだけ吸入しないようにすることが最も確実で安価な対策といえるでしょう。
実際の耳鼻咽喉科外来では、診療の最中に十分に日常生活上の指導などをする時間的余裕がないことがしばしばありますが、待合室や受付の前にパンフレットやポスターをできるだけ置くようにしています。このようなものを有効に活用していただくのと同時に、それぞれのご家庭にあった方法を工夫してみて下さい。
副鼻腔炎も鼻の代表的な病気ですが、これは風邪がこじれた結果として起こることが多いので、風邪を引かないように、ひいてしまってもこじれないように注意し予防するのが大切です。これら以外にも鼻の病気はいろいろありますが(中には鼻腔や副鼻腔のがんもあることをお忘れなく)、予防はできなくとも軽いうちに適切に対処するに越したことはなく、しかもほとんどの場合近くの耳鼻咽喉科専門医がお助けできることでしょう。
暦の上では秋となり、今年もまたブタクサが道端に黄色い花をたくさん咲かせ、花粉をまき散らす季節が近づいてきています。この花粉には敏感な方はもちろん、そうでないかたも「鼻の日」を機会に鼻の健康に気を配っていただき、快適な秋を過ごしていただきたいと願う次第です。
平成9年 茨城新聞