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日本耳鼻咽喉科学会茨城県地方部会は、茨城県の耳鼻咽喉科・頭頚部領域を専門とする医師が参加する会です。


鼻の日
the Day of Nose


2006年(平成18年)

「『鼻の日』に寄せて」 −鼻出血について−

文責:筑波大学臨床医学系耳鼻咽喉科講師 飛田忠道

日本耳鼻咽喉科学会で1961年に8月7日を「鼻の日」と制定し、以来鼻疾患に関する啓蒙を毎年努めており、今年で46回目となります。茨城県地方部会としては、鼻の構造、機能、アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、嗅覚障害、鼻副鼻腔腫瘍などのお話を新聞紙面やHPで毎年続けさせていただいてきました。今年は一般的に最も身近な疾患である鼻出血についてお話させていただきます。

 耳鼻咽喉科医師は外来診療をしていると、必ずといっていいほど毎日鼻出血の患者さんを診察します。鼻出血といっても非常に軽いものから、命にかかわるほどの病気によるものまでさまざまな程度があります。

最も多いのはキーゼルバッハ部位という場所からの出血です。この場所は、左右の鼻を真ん中で分けている鼻中隔という隔壁の前の方の場所です。鼻の穴からそーっと指を滑らせて行くと、入り口は皮膚なので触っても痛くはないのですが、少し奥へ入ると皮膚から粘膜になり、内側の壁に痛みを感じます。そこがキーゼルバッハ部位です。鼻の中は一面粘膜で覆われ、常に粘液を出して鼻に入ってきたほこりや花粉などの異物を洗い流そうとしたり、乾燥した空気が入ってきたときには加湿して肺に乾燥した空気が入らないようにしていて、空気清浄機の役割があります。キーゼルバッハ部位はその入り口となり、非常に多くの刺激(時には自分の指にまで)にさらされることになります。その上キーゼルバッハ部位は毛細血管の非常に発達した部位であり、ちょっとした刺激でも粘膜に傷がつくとすぐ出血します。

さて、そういった時皆さんはどう対応しているでしょう。昔から色々な方法が言い伝えられていますが、「上を向いて鼻の付け根を押さえる」、「後頭部をトントンたたく」などが良く聞かれます。しかし、医学的には以下の方法が最も効果的です。

1. 前かがみの姿勢で、血液がのどに垂れ込まないようにする。

2. 親指大の脱脂綿(なければティッシュ)を出血側の鼻内につめ、両側の小鼻(鼻翼)を親指と人差し指で強くつまむ。ワセリンなどをつけてつめると効果的です。

3.血液がのどにまわった時は飲み込まないで、吐き出す。血液を飲み込むとあとで吐き気、嘔吐が起きます。


キーゼルバッハ部位からの出血であれば、以上の処置でほとんどは10〜15分で止血します。傷はかさぶたとなって治っていきますが、それが気になっていじったり、強く鼻をかんだりすると、また出血しますので気をつけてください。

 上の処置でも止血しなかったり、何度も繰り返すときは、高血圧、動脈硬化などで太い血管が切れた場合や、血友病などの血液疾患、鼻副鼻腔の良性、悪性腫瘍などの可能性もあります。

鼻出血の70〜90%がキーゼルバッハ部位からの出血といわれています。自分で対応可能なことも多いと思いますが、今回のお話を読んで、少しでも心配な方は一度耳鼻咽喉科をおたずねください。安心して秋の心地良い空気を鼻から吸いましょう。

平成18年 書き下ろし

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