例年7月20日前後には梅雨明けとなるところが、今年は1週間以上遅れましたが、やっとじめじめした季節も終わりました。筆者が子供のころにはエアコンなどなく、長く続く雨と部屋に干した洗濯物で頭の中まで湿ってカビが生えそうだなぁなんて思っていたのを思い出します。しかし最近は病院の中も家の中も車の中もエアコンのおかげでサラッと快適に過ごせるようになりました。
ほとんどの方はサラッとした環境のほうが過ごしやすいと思いますが、暗くじめじめした環境が大好きなヤツもいます。そうですカビです。お風呂場や放置された食べ物につくカビが一般的ですが、人間の体に寄生するカビもいるのです。最も有名なのは水虫ですが、それに関しては皮膚科の先生にお譲りするとして、本稿では耳鼻咽喉科のカビ・・・真菌症についてお話したいと思います。
元々ある程度のカビは人間の体に常在菌として棲んでいて、健康でいる分にはほとんど影響はないのですが、体全体の免疫力が落ちたり、局所に炎症を起こしていたりすると菌は増殖してきます。特に、ステロイドホルモンや抗癌剤による免疫力の低下、抗生物質の使用による菌交代現象、糖尿病罹患率の増加などにより、真菌感染症は増加傾向にあるといわれています。
耳鼻咽喉科の領域は、暗く狭い湿った領域です。カビ類にとってはなかなか住み心地がよいようで、耳にも鼻にも口やのどにもカビによる真菌症が発生します。耳の中や口の中は診察すれば多くの症例では見た目で診断可能です。さらに、病変をぬぐって細菌培養検査に提出すれば確定診断となります。診断が難しいのは鼻副鼻腔の真菌症、特に副鼻腔です。副鼻腔の構造については平成15年の記事も参考にしてください。
症状としては、通常の副鼻腔炎症状(鼻閉、鼻漏)や、悪性腫瘍類似の症状(血性・悪臭鼻漏、顔面腫脹、頬部痛、眼球運動障害、視力低下、眼痛、頭痛、発熱)のことが多いのですが、約2割の方は無症状です。というのも、チーズの表面に付着しているだけのようなもの(寄生型)から、お風呂の黒カビのように組織の深くまでしみ込んでいってしまい眼の中や頭の中まで入り込んでしまうもの(浸潤型)までさまざまなものがあるのです。特に、頭の中まで入ってしまったものでは、死亡率90%以上との報告もあり、これは副鼻腔の癌よりも危険な状態です。
レントゲン、CT、MRIなどの画像検査や内視鏡検査である程度予想できることが多いのですが、実際には手術で副鼻腔を観察し、組織検査に提出しないと確定診断にはいたりません。診断後の治療に関しては、病型によって異なり、副鼻腔を開放して洗浄を繰り返す場合や眼球摘出、頭蓋底手術など癌に準じた拡大手術を必要とする場合もあります。また、抗真菌薬も日々進歩しており、効果が強く、副作用の少ないものがでてきています。それでもなかなか治りにくいのが現状です。
治りにくいなかでも、当然早期に発見されたほうが経過は良いので、少しでも心配な方は一度お近くの耳鼻咽喉科をおたずねいただき、ご相談ください。
平成19年 書き下ろし