「昔、蓄膿症の手術を受けたことがあります。」という患者様が、「また鼻の調子が悪くって」と外来にいらっしゃる事がよくあります。調べてみると副鼻腔炎(蓄膿症)が再発していて、再手術を勧めることもあります。そうするとほとんどの方は「えー、またあれやるのー!?」と嫌な顔をされます。
20年以上前に手術を受けられた方のほとんどは、局所麻酔で、上口唇をめくって、歯肉を切開しほっぺたの骨をノミで削って鼻の中をきれいにする「上顎洞根本術」を受けられています。ノミでガンガン削った音が嫌だった、途中で麻酔が切れてきて痛かった、手術後顔がパンパンに腫れたなど、辛い思い出を持った方が多くいらっしゃいます。
近年は、全身麻酔も安全になり、(上顎洞根本術を行うこともありますが、)ほとんどは鼻の入口からの内視鏡を使った手術になってきました。内視鏡下の手術では、細部までよく観察、清掃可能で、術後の回復も格段に早くなりました。更に、マイクロデブリッターという画期的な装置ができました。ポリープや病的な粘膜を吸引しながら、高速回転する刃で削り取るものです。当院ではMedtronic社製のXPS3000システム®や、小林メディカル社製のディエゴシステム®を用いています。私もこの装置を使い始めてからは手放せなくなっています。
更に、手術支援機器は発達を続けており、自分が今どのあたりを手術操作しているかを3次元的に提示するナビゲーションシステムや、病的な粘膜などを焼灼するためのレーザーや、電気凝固機器、超音波振動メス、内視鏡画像をより奇麗に映し出すハイビジョンシステムなどが導入されてきています。これらを使うことで、より安全で正確な手術が期待できます。
さて、それではこれらの機器を使えば初心者でも素晴らしい手術が可能なのでしょうか? 当然、若手医師には手術トレーニングが必要になります。
そこで当大学では、産業技術総合研究所(つくば市)と協力して、鼻の内視鏡手術を遠隔で研修するためのシステムを開発しています。あらかじめ患者様のCT画像をもとに鼻のモデルを産業技術総合研究所で作製します。実際の患者様の手術は手術室で指導医が行い、若手医師は大学内にある次世代医療研究開発・教育統合センター(CREIL)という全く別の場所で、お互いの内視鏡画像を見比べながら鼻のモデルを指導医と同じように手術していき手術操作を学びます。さらに二人の術者を一つの画面に同時に映し出す技術で、お互いの姿勢や、手術器具の挿入角度などをリアルタイムで確認できます(下図)。模型はばらすことができるので、開けてみれば今どこを操作していてどこが足りないのか一目瞭然です。鼻の構造は立体的で複雑なので、それを見るだけでも医学の学生達は分かり易かったと言っていました。今後、さらに発展させ茨城の耳鼻科医の鼻の内視鏡手術の技術の向上を目指したいと思います。
指導医 学習者 指導医
手術しないで薬で治ればそれに越したことはありません。しかし、手術が必要な場合もあります。
鼻の手術は年々進歩しています。
不安はあると思いますが、まずは耳鼻咽喉科専門医に相談してみてください。
平成21年 書き下ろし