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日本耳鼻咽喉科学会茨城県地方部会は、茨城県の耳鼻咽喉科・頭頚部領域を専門とする医師が参加する会です。


鼻の日
the Day of Nose


2020年(令和2年)

「『鼻の日』に寄せて」―好酸球性副鼻腔炎について

文責:宮本秀高 (筑波大学附属病院 病院講師 耳鼻咽喉科・頭頸部外科) 

 一般的に『蓄膿症』と呼ばれる『(慢性)副鼻腔炎』の一般的な症状として膿性鼻汁、頬部痛、発熱、頭痛、頭重感、咳嗽、後鼻漏、鼻閉など様々な症状を認め、患者さん自身が、何科にかかれば良いか分からない場合や、耳鼻咽喉科以外を受診し、見つかることも少なくないと思います。
『副鼻腔炎』には様々な原因があり、感冒に伴う『急性副鼻腔炎』や経過の長い『慢性副鼻腔炎』、真菌による『副鼻腔真菌症』や特殊なものとして『好酸球性副鼻腔炎』があります。
『好酸球性副鼻腔炎』は近年増加傾向にあり難治性で、指定難病対象疾病にもなっており、その特徴、最新の治療についてご紹介致します。
特徴としては、一般的な慢性副鼻腔炎に比べ治りにくく、手術加療を行っても再発を繰り返すことが多く、嗅覚障害、多発する鼻茸による高度な鼻閉、粘調な(ニカワ様の)鼻汁、気管支喘息、アスピリン喘息などをしばしば合併することが挙げられます。
好酸球性副鼻腔炎の診断は、鼻鏡検査や内視鏡検査、血液検査、画像検査(CT検査)により『鼻茸の存在』、『副鼻腔炎の存在部位』、『末梢血好酸球率』を調べ、鼻茸組織中好酸球数を測定して、確定診断に至ります。
また気管支喘息、アスピリン喘息、NSAIDsアレルギーの合併の有無、好酸球性中耳炎合併の有無により軽症、中等症、重症に分類されます。
好酸球性副鼻腔炎の治療としては薬物療法、手術療法があります。薬物療法としては従来の慢性副鼻腔炎で多く行われているマクロライド系抗生剤少量長期投与はあまり効果がありません。ステロイド内服は効果的ですが、副作用の問題もあり長期間の投与に関しては厳重な管理が必要となります。ステロイド点鼻薬とロイコトリエン受容体拮抗薬、生理食塩水による鼻洗浄が基本となります。
手術療法は、他の副鼻腔炎と異なり単独での完治の可能性は低いものの、鼻茸が充満し鼻閉や嗅覚障害を来たし、鼻洗浄の効果が低い場合、鼻腔の形態を整え、鼻処置、鼻洗浄をしっかり行うためのfirst stepとして重要です。内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS)と言われる鼻の穴から内視鏡、器具を挿入して行い、痛みなどは少ない手術です。しかし他の副鼻腔炎の手術と比べ、かなり念入りに鼻腔形態を整える必要があります。(不完全な手術は再発の元になります。)
喘息に対して行われる抗IgE抗体や抗インターロイキン抗体薬が術後の好酸球性副鼻腔炎のcontrolに極めて有効な場合もあります。最近適応が追加された、好酸球性副鼻腔炎を含めた、鼻茸を伴う慢性副鼻腔に対する抗インターロイキン(IL-4/13)受容体抗体薬など効果の高い新しい生物学的製剤の治療が今後重要となると思われます。
軽症を除き、基本的に一生涯定期的な通院と、セルフケアが必要となる特殊な副鼻腔炎という認識が必要であります。


2020年 書き下ろし



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