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日本耳鼻咽喉科学会茨城県地方部会は、茨城県の耳鼻咽喉科・頭頚部領域を専門とする医師が参加する会です。


耳の日
the Day of Ear


2000年(平成12年)

「『耳の日』に寄せて 第1回」

文責:筑波大学臨床医学系耳鼻咽喉科講師 伊東善哉


 (社)日本耳鼻咽喉科学会では3月3日を「耳の日」と定め,多くの人々に耳の健康に対する意識を高めていただきたいと考えています.しかしながら,「3月3日は何の日?」と問われれば,ほぼ100%の人が,「桃の節句」あるいは「雛祭り」と答えるでしょう.もしかしたら,「駄洒落になんかつき合っていられない!そんなくだらないことを聞く耳は持たない!」とおっしゃる厳しい方もいらっしゃるかもしれません.
 大体において,耳に何らかの症状があり,すでに耳鼻科を受診したことがあるなり現在受診中であるという方でなければ,耳を特別意識しないというのが,心臓や胃腸とは違うところです.悪い亡霊にあの世に連れて行かれそうになった芳一が,耳にだけ魔よけの呪文を書き忘れ,耳を持って行かれてしまったのが「耳なし芳一」の話ですが,ほとんどの人が常に耳から音を聞いているにもかかわらず,その存在を意識しないのです.今回は,3回連載の第1回目と言うことであり,現時点で健康な耳をお持ちの方が,一番自分の耳を意識する機会である耳掃除について述べてみることにしました.
 外耳道の衛生のために耳の掃除をするわけですが,これはむしろあまりしつこく耳掃除をしないことに尽きます.几帳面な人が市販の綿棒で,耳の穴をいじり過ぎて,耳垢を鼓膜の近くまで押し込んでしまったり,皮膚がむけるほどこすって,外耳炎を起こすことがしばしば見られますが,耳垢は何もしなくても結構自然に出てくるものです.それは,外耳道のすぐ前に顎関節があり,顎の動きに伴い外耳道の軟骨部と皮膚が動かされることによるのです.また,耳垢は脱落した皮膚と皮脂,耳垢腺からの分泌物の混合物ですが,それ自体感染防御作用をある程度持っているのです.つまり,外耳道の皮膚を傷つけたりしなければ,耳の穴の中は結構きれいに保たれるわけです.以上からおわかりのように,耳掃除は耳の入り口近くに出てきた耳垢を清潔な細い綿棒などで,軽く掻き出す気持ちで行えば十分なのです.また,耳掃除の際には,安定した体勢がとれていること,すぐそばに子供などがいないことを確認してから行って下さい.うっかり,綿棒や耳掻きが奥にまで入ってしまうと,鼓膜が破れるだけでなく,耳小骨がずれたり,内耳の傷害を起こすことさえあるからです.
 耳の中でも安全第一を心がけ,やりすぎに注意しましょう.

平成12年 常陽新聞

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