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日本耳鼻咽喉科学会茨城県地方部会は、茨城県の耳鼻咽喉科・頭頚部領域を専門とする医師が参加する会です。


耳の日
the Day of Ear


2001年(平成13年)

「『耳の日』に寄せて」−難治化する急性中耳炎−

文責:筑波大学臨床医学系耳鼻咽喉科講師 高橋和彦


 近年、急性中耳炎の臨床像が多様化し、従来、抗生剤治療により容易に治癒していた中耳炎の中に、抗生剤の投与に関わらず改善しない難治例や、感染を繰り返す反復性症例などの治療に苦慮する例が増加している。この背景には、成長過程にある子供の免疫能の変化や、抗生剤の頻用により耐性菌が急増したことや、集団保育による耐性菌の伝播などが考えられている。
 急性中耳炎は小児に好発し、特に生後6ヶ月から2歳までの乳幼児に頻発する。これは、生後6ヶ月頃から母体から移行した免疫抗体(IgG)がなくなり、自ら十分に抗体を産生できるまでの間の、生涯で最も生理的に免疫能が低い時期にあたるためとされている。
 小児の場合の起炎菌として最も多いのが肺炎球菌(40〜50%)で、次いでインフルエンザ菌(30〜40%)である。一般に薬剤耐性菌の増加は抗菌剤の頻用に起因するといわれている。世界の抗菌薬の使用量を年代毎に比較すると、1980年代後半から1990年代にかけて世界的に抗菌剤が大量に使用されるようになるとともに、それを追いかけるようにペニシリン耐性肺炎球菌が徐々に増加しているとの報告がある。また、北欧のスウェーデンからの報告ではペニシリン耐性菌肺炎球菌はほとんど認められず、この背景には急性中耳炎の治療に抗菌薬全体の使用量が非常に少ないことがあげられている。
 急性中耳炎や急性中耳炎を反復する反復性中耳炎のリスクファクターとして最も重要なものは集団保育であり、特に2歳以下の乳幼児でその影響が大きいとされている。また、保育園児に難治性のペニシリン耐性肺炎球菌による中耳炎が多いことから、0歳児の保育を行う乳幼児保育園という環境は反復性中耳炎のリスクファクターとなり得る。これらの耐性菌の伝播の観点から、前述のスウェーデンでは耐性菌陽性者に対して外出規制などの厳格な指導がなされている。
最後に、中耳炎のワクチン予防に関して、肺炎球菌莢膜多糖体抗原ワクチンとb型インフルエンザ菌莢膜抗原ワクチンが臨床検討されている。また、粘膜ワクチン(経口ワクチン、経鼻ワクチン)に関する検討もなされている。現時点では、中耳炎に対する有効なワクチンはないが、いずれ遺伝子ワクチンを含めた有効な予防薬が開発されることが期待される。

平成13年 書き下ろし


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