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日本耳鼻咽喉科学会茨城県地方部会は、茨城県の耳鼻咽喉科・頭頚部領域を専門とする医師が参加する会です。


耳の日
the Day of Ear


2004年(平成16年)

「『耳の日』に寄せて」−滲出性中耳炎(しんしゅつせい中耳炎)−

文責:筑波大学臨床医学系耳鼻咽喉科講師 辻 茂希

今回は滲出性中耳炎について触れたいと思います。
最近、子供の滲出性中耳炎の増加と低年齢化(幼児〜小学校低学年)が言われています。滲出性中耳炎は通常、痛みや発熱を伴わないので、家族も気が付かないことも多く、実際の患者数はもっと多いのではないかと考えられます。

☆滲出性中耳炎とは・・・
最初に、「聞こえ」についてですが、音が耳に入るとまず鼓膜を振動させます。そしてその振動は鼓膜の内側(中耳腔:ちゅうじくう)にある3つの骨(耳小骨:じしょうこつ)を振動させ、内耳(蝸牛:かぎゅう→かたつむり様の器官)へと伝わります。
滲出性中耳炎とは、この経路の中で鼓膜と内耳の間(中耳腔)に液体がたまってしまう中耳炎をいいます。

☆症状は・・・
たまった液が鼓膜や耳小骨の振動を邪魔して聞こえが悪くなります。鼓膜や中耳に強い炎症が起こり、膿(うみ)がたまってしまう急性中耳炎と違い、痛みや発熱を伴うことはほとんどありません。特に乳幼児の場合は本人が症状を訴えることが少ないので、御両親がその徴候に気付くことが重要です。
・耳をよく触る。
・ぐずついていてよく泣く。
・言葉の発達が遅い。
・呼んでも返事をしないことが多い。
・なんとなく反応が鈍い。
・テレビの音が大きく、聞き返しが多い。
・あまり活発でない。           など
このような徴候に気付いた場合は滲出性中耳炎の可能性があります。

☆治療の必要性・・・
一般に滲出性中耳炎は免疫機能や体の構造が成長する小学校中〜高学年、及び中学生になるにしたがい、自然治癒もあり、患者数が急に減少します。しかし、滲出性中耳炎を治療せず放置すると、慢性中耳炎や癒着性中耳炎、真珠腫性中耳炎といった手術を必要とする中耳炎の原因となることがあります。また、幼児期は言葉を覚え、感情や性格などが確立する重要な時期ですので、適切な治療を受け、この時期をより良い状態に維持することが大切です。

☆なりやすい子、誘因は・・・
副鼻腔炎(蓄膿症)やアレルギー性鼻炎でいつも鼻をグズグズさせている子供、特に鼻がうまくかめず、鼻をすすっている子供は注意が必要です。その他、扁桃肥大やアデノイドが大きく、鼻づまりの状態や口呼吸をしている子供などもなりやすいといわれています。

☆治療について・・・
 ・内服薬、ネブライザー
  中耳鼓膜を保護し、滲出液を外へ出しやすくします。また、副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎があれば  その治療を行います。
 ・耳管通気
  鼻の奥と中耳をつなぐ耳管を通して鼻から空気を入れて換気をよくします。
 ・鼓膜切開
  治りにくい場合は鼓膜に小さな穴を開け、たまっている液体を吸引します。鼓膜の穴は数日で自然  に閉じることが多いです。
 ・上記治療でも改善しない場合は鼓膜にチューブを留置して中耳腔と外との換気を保たせる治療を行  います。
滲出性中耳炎は副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎に対する治療を含め、長期間の通院が必要なことが多く、患児の状態に合わせた根気強い治療と、御両親に積極的に生活習慣や健康の管理をしていただくことが重要と考えます。

☆滲出性中耳炎の治療中に気をつけること・・・
 ・鼻をよくかむ習慣をつける。
   強くかみすぎては良くないので、ゆっくり片方ずつかむように教えて下さい。時には御両親も一   緒にかんであげるのもよいと思います。
 ・鼻すすりをやめる。
  鼻すすりは滲出性中耳炎の悪化、遷延化(治りを遅らせる)の原因と言われています。鼻をすすっ  ているのに気付いたら、その都度注意してやめさせるようにして下さい。鼻すすりをやめることだ  けで滲出性中耳炎が治ってしまったという子供もいます。
 ・うがいの習慣をつける。
  風邪やノドの炎症も悪影響を及ぼす可能性があるので、うがいをする習慣をつけ、風邪を予防しま  しょう。

☆プールについて・・・
以前は滲出性中耳炎の子供に水泳を禁止している医師が多くいましたが、最近の傾向としては、滲出性中耳炎にかかっている子供でも鼓膜チューブが留置されている場合や急性の炎症を起こしている場合を除いては水泳を許可している医師も増えています。しかし、咽頭(のど)や鼻などの炎症の悪影響を考えれば、あまり寒い環境や水の入れ替えが不十分で強い塩素を含むプールでの水泳は刺激となりますので、避けたほうが良いかもしれません。

 以上、いろいろ述べてまいりましたが、少しでも「おかしい」、と気付いた点があれば、まずは気兼ねせず、耳鼻咽喉科専門医の診察を受けるようにして下さい。

平成16年 書き下ろし

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