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日本耳鼻咽喉科学会茨城県地方部会は、茨城県の耳鼻咽喉科・頭頚部領域を専門とする医師が参加する会です。


耳の日
the Day of Ear


2005年(平成17年)

「『耳の日』に寄せて」−鼓膜の外傷について−

文責:筑波大学臨床医学系耳鼻咽喉科講師 辻 茂希


耳の外傷でよく来院されるのは、「耳かきで強く刺してしまった」、「平手打ちをくらった」というものです。鼓膜までは達しておらず外耳道の損傷のみでとどまっているものも多く認められますが、鼓膜穿孔をきたしている場合は耳鼻咽喉科専門医のしっかりとした診察・治療・経過観察が必要となります。鼓膜が破れたといわれると、患者や御家族は「耳が聞こえなくなってしまうのでは?」など非常に心配されていることが多いので今回は「鼓膜の外傷」の種類・治療法・経過などについて触れたいと思います。

 まず原因についてですが前述のとおり、@耳かき、A平手打ち、によるものが多く、その他マッチ棒や鉛筆、特殊なものとしては火傷、昆虫などの異物によるものもあります。@は直接鼓膜が受傷する直達性穿孔、Aは圧による介達性穿孔と分類できます。症状としては難聴が主ですが、@では耳痛・耳出血、Aでは耳鳴り・耳閉感も多くみられます。

 鼓膜は再生能力が高く、小さい穿孔ならば(小児は特に)数日で自然閉鎖してしまいます。比較的大きな穿孔でも経過をみていると自然閉鎖することが多く、その期間は数日から数ヶ月といわれます。しかし、ただ放っておけば良いというわけではありません。耳の状態によっては外耳道や鼓膜の処置・消毒、抗生剤の内服・点耳など、感染を予防することが重要となります。治療としては上記の保存的治療を行い、まずは自然に閉鎖するものなのか、耳鼻科医による診察の上、経過を観察していくことになります。早急に手術が必要になったり、今後耳が全く聞こえなくなったりすることは殆んどないので、必要以上に心配しなくても大丈夫です。大きな穿孔に対しては外来にてパッチ術などの処置を行うこともありますが、経過を見て閉鎖する傾向がない場合は手術が必要となります。ただ、鼓膜に穴があいたままでも音はある程度聞こえますし、高齢の場合や手術を希望されない患者さんではそのまま経過をみることも可能です。

 最後に重症例についても触れておかなければいけません。鼓膜の内側の「耳小骨」と呼ばれる内耳に音を伝える骨が損傷されており、聴力改善には手術が必要となる症例もあります。特にその骨がはずれて内耳の中の液が漏れる「外リンパ漏」が生じている場合、早急な手術をしないと難聴が高度に残ってしまう可能性もあります。全く聞こえないなどの高度難聴、受傷後強いメマイが続いている場合などは注意が必要です。

 さて、ある程度「鼓膜の外傷」についてイメージがつきましたでしょうか?一般的に「鼓膜の外傷」は、大部分の場合はあせる必要はなく、治癒できることが多いといえます。しかし、思いもかけず重症の場合もありますので、やはり耳鼻咽喉科専門医を受診して判断したほうが良いでしょう。

平成17年 書き下ろし

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