聞こえが悪くなって耳鼻咽喉科を受診すると「聴力検査をしましょう。」と言われることがあると思います。聞こえの検査にはさまざまな方法がありますが、最も一般的な聴力検査は「標準純音聴力検査」といい、機械から出された音のうちどれだけ小さな音が聞き取れるか調べる検査です。比較的手軽に行える検査ではありますが、とても多くのことが分かるため、クリニックから大学病院までほぼすべての耳鼻咽喉科で行っているといっても過言ではありません。
聞こえが悪くなることを難聴と言い、大きく2種類に分けることができます。受け取った音を増幅して聞こえの神経に伝えるまでの部分を外耳・中耳といいます。外耳・中耳に原因がある難聴、つまり音を伝える部分が原因の難聴を「伝音難聴」といいます。また、音を受け取って脳に伝えるまでの部分を内耳・蝸牛神経(聞こえの神経)といいます。内耳より中枢に原因がある難聴、つまり音を感じる部分が原因の難聴を「感音難聴」といいます。
○…右耳の気導聴力
×…左耳の気導聴力
[ …右耳の骨導聴力
] …左耳の骨導聴力
図の縦軸のdBというのは音の大きさを示します。大きくなるほど大きな音を示します。図では下に行くほど(数字が大きくなるほど)大きな音でないと聞こえないことになり、聞こえが悪いということになります。
図の横軸のHzというのは音の高さをしまします。数字が大きいほど高い音を示します。図では左が一番低く、右に行けばいくほど高い音ということになります。
気導聴力とは普通に耳の穴を通して聴いた音での聴力で、外耳・中耳から始まり脳が音を受け取るまでの部分すべてにおける聴力を示します。これに対して骨導聴力とは耳のおさまっている骨(側頭骨)に直接音の振動を加え、内耳を刺激して聞いた音での聴力であり、内耳やより中枢(音を感じる部分)に障害がないかを調べることができます。実際の検査結果は上図(聴力正常)のように示され、その高さの音で聞こえた一番小さい音に印をつけていきます。この図のようにすべての記号が30dBより上にあれば聴力は正常と考えてよいでしょう。
次に難聴がある人の場合の聴力検査図を示します。
伝音難聴は音を伝える部分の障害で起こります。つまり、耳垢がつまったとき(外耳の閉塞)や中耳炎(中耳の炎症)などでは気導(耳の穴を通した聴こえ)で聴力が低下し、骨導(内耳を刺激した時の聴こえ)では正常の値を示します。上の図では右耳の聞こえが伝音難聴に当たります。右気導の値(○)と右骨導の値([)に差ができているのがお分かりでしょうか。
これに対して、加齢による難聴・突発性難聴のような内耳やより中枢の病気でである感音難聴では、気導および骨導の両方で聴力低下が認められます。内耳や中枢で音を受け取れないので、伝える部分がいくら正常でも音が伝わらないため気道・骨導とも聴力が低下してしまいます。上の図では左耳の聞こえが感音難聴に当たります。左気導の値(×)と左骨導の値(])が均等に悪くなっています。
上の図では左気導の値(×)と左骨導の値(])が両方とも低下していますが、均等ではなく差があります。つまり「伝音難聴」があるということです。しかし、ただの伝音難聴との違いは骨導の値が正常値より低下しており、「感音難聴」も存在しているということです。二つが合わせっているため「混合性難聴」といいます。加齢による難聴がある人に耳垢が詰まってしまった場合など、両方の難聴がまじりあってしまったばあいはこのような図になります。
この図のうち右の聴力検査図はおかしなところがあります。右気導の値(○)と右骨導の値([)に差があるのですが、右気導の値(○)が右骨導の値([)よりも聴力がよくなっています。内耳や中枢で音を受け取れないのに、普通に音が聴こえるということになっていまい検査に矛盾がでてしてしまいます。これは機能性難聴(心の問題で起こる難聴)・詐聴(聴こえないと嘘をついていること)といったばあいにおこり、耳そのものの問題ではないときに起こります。
標準純音聴力検査はいろいろな情報がつまっています。さまざまな種類の難聴の診断のために非常に重要な検査でありますが、ほぼすべての耳鼻咽喉科で施行できるといってよいほど一般的な検査でもあります。聞こえが悪くなったと感じた時、耳の調子がおかしいと感じた時は、ぜひ耳鼻咽喉科専門医の診察を受けてみてください。
平成23年 書き下ろし