「『鼻の日』に寄せて」―嗅覚障害について―
文責:佐藤健徳 (筑波大学附属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
2019年末からの新型コロナウイルス感染症の爆発的流行、いわゆる「コロナ禍」から数年が経過しましたが、未だ新規感染や後遺症で苦しんでいる方が多くいらっしゃいます。今回は、新型コロナウイルス感染症の後遺症の一つとして注目されるようになり、耳鼻咽喉科の診療対象である嗅覚障害についておはなしします。
皆様は、においのある生活を送ることができていますか?
においは我々が生活するうえで重要な感覚のひとつであり、食事の風味や草花の香りを楽しんだり、腐敗した食品やガス漏れなどを悪臭で検知したりと様々な場面でその役割を果たしています。嗅覚障害はにおいを感じる感覚、つまり嗅覚に何らかの異常が生じている状態のことを指します。米国での報告によれば人口100人あたり1〜3人に嗅覚障害があるといわれており、鼻から脳までにかけて存在するにおいの伝達路のどこに異常が生じるかによって、以下の3つに分類されて
います。
①気導性嗅覚障害
においの物質が、におい細胞である嗅細胞の存在する嗅裂(鼻の奥の上の方にあります)にうまく届かず、神経は生きているのににおいを感じることができない状態を指します。慢性副鼻腔、いわゆる蓄膿症の中でも特にポリープを伴う例に多く、その他アレルギー性鼻炎や腫瘍などが原因になります。
②嗅神経性嗅覚障害
嗅細胞そのものが何らかのダメージを負い、嗅覚が低下した状態です。新型コロナウイルスに代表されるウイルス感染や、頭や顔を強くぶつけるといった外傷などが原因になります。
③中枢性嗅覚障害
においの伝達路のうち鼻より奥、頭蓋骨の中のどこかに問題が起きている状態です。頭をぶつけることによる脳挫傷や、脳腫瘍、脳卒中が原因になります。また、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病などの発症前の症状としても有名です。
嗅覚障害の診断のために、我々耳鼻咽喉科医はカメラで鼻の中を直接確認したり、嗅覚検査やアンケート調査を行ったり、CTやMRIなどの画像検査を行います。
治療法は原因や病態によって様々ですが、代表的なものとして以下の3つがあげられます。
①薬物療法
鼻噴霧用ステロイドホルモン剤や抗ヒスタミン薬、マクロライド系抗菌薬、医療用漢方製剤などがあります。
②手術療法
慢性副鼻腔炎に対する内視鏡下鼻副鼻腔手術が代表的です。
③嗅覚刺激療法
現在研究が進んでいる治療法のひとつで、複数種類のにおいを毎日嗅いでトレーニングをするものです。
嗅覚障害は様々な原因で起こりうる病態であり、また治療法や治療効果も多彩です。中には残念ながらなかなか改善が難しい方もいらっしゃいますが、一方で治療を行うことで嗅覚が改善し、生活の質が向上する方も多くいらっしゃいます。鼻水が出てにおいが分かりにくい、風邪を引いてからにおいがしない状態が続くなどの症状にお悩みの方は、お近くの耳鼻咽喉科への受診•相談をお勧めいたします。
においのある生活で、人生に彩りを!
2024年 書き下ろし