後の文書 
 前の文書
本文へスキップ

日本耳鼻咽喉科学会茨城県地方部会は、茨城県の耳鼻咽喉科・頭頚部領域を専門とする医師が参加する会です。


鼻の日
the Day of Nose


1999年(平成11年)

「『鼻の日』にちなんで第2回」ー鼻・副鼻腔の腫瘍についてー

文責:筑波大学臨床医学系耳鼻咽喉科講師 伊東善哉


 お盆の前のこの時期には,特に年輩の方々はその準備に忙しく,自分や家族の鼻のことは,多少調子が悪くても後回しにしてしまいがちになるのではないでしょうか.さらに,古くからの伝統や風習を大切にする地方の人々の中には,「耳くそ鼻くそ医者」に診てもらう病気に大したものではないと高を括っておられる方もいるようです.今回は特に中高年者の方に,鼻の病気を軽んじてはいけないと申し上げたいのですが,ある程度は怪談ならぬ恐ろしい話をしなければなりません.

 四谷怪談のお岩さんの顔を思い浮かべて下さい.お岩さんは毒を盛られて,顔が腫れ上がって死んだのですが,四谷怪談の絵を見ると目が殆ど開かないくらいに片方の額と頬が極度に腫れて描かれています.一般に毒物などで顔や全身がむくむことがしばしばありますが,あのように片方だけが盛り上がったようになるのは,鼻ないし副鼻腔の腫瘍がほとんどです.そして,そのほとんどが上顎癌という悪性腫瘍です.副鼻腔は顔の骨格の中にある空洞ですが,ここに癌が発生してもなかなか症状が現れません.まわりの骨壁を壊して鼻腔内や頬の皮膚下に頭を出して来たり,天井を突き破って眼球を押し上げたりして,ようやくはっきりした異常として認識されるということが多いのです.

 だからと言って,救いがないわけではありません.つまり,症状が出現してすぐにきちんとした治療を受ければ,十分に治る可能性があるのです.放射線照射と抗癌剤を使用し,腫瘍をある程度限局させてから,手術で病巣を切除するのが普通に行われている治療法で,時には腫瘍を根絶するために眼も含めて顔半分を切除することもあります.素人の方は,実際にそのような手術をされた後の自分の姿を想像するだに恐ろしく思われるでしょうが,最近は義歯や義眼などの補装具や形成外科手術が進歩し,術後の醜形についてもかなりよい対応ができるようになってきています.「肉を切らせて骨を断つ」式の思い切った治療の後は,その先の手だてが用意できる時代なのです.命あっての物種ということです.

 特に癌年齢に達した方々に,鼻や顔全般,時として眼のことまで含めて何かただならぬ予感を感じられた時は,思い切って耳鼻咽喉科・頭頸部外科専門医を訪ねられることをお勧めします.

平成11年 常陽新聞


ナビゲーシ